相続税の申告の後に税務調査が入り、追加で相続税を課される場合があります。
本記事では、税務調査が行われる時期や内容、流れ、税務調査への対策について詳しく解説します。
そもそも相続税の税務調査とは?
相続税の申告について、日本では納税者が自分で納めるべき金額を計算する「申告納税方式」をとっています。
そのため税務署が「いい加減な申告ではないか」「脱税をしていないか」をチェックするのが税務調査です。
税務署は、被相続人の
・過去の所得
・本人や家族の預貯金の流れ
・不動産の保有状況
・株式や国債などの保有状況、履歴
など、相続に関する様々な情報を入手することができます。
これらの情報をもとに、相続税の申告内容に問題がないかを確認します。
「疑問や不審がある」または「納付した額が正しい税額より少ない」などの場合は、相続人に申告内容を確認するために調査に入ります。
税務調査には任意調査と強制調査があります。
通常は任意調査で、強制捜査はめったにありません。
【任意調査】
相続人の同意を得た上で、税務調査官が実施するものです。税務署から事前に連絡があり、調査日程を決めて実施されます。
被相続人あるいは相続人の自宅で相続人全員が立ち会い、調査官の質問に対して相続人が答え、通帳や権利証などの書類を確認します。税理士に立ち会ってもらうこともできます。
任意調査といっても相続人には調査の受任義務があると法律で定められています。断ると強制調査が行われることになるため、調査自体を拒否することは事実上できません。
【強制調査】
国税犯則取締法に基づき、裁判所の令状交付を受けて国税局査察部が実施するものです。事前に連絡はなく、抜き打ちで調査に入ります。
悪質な脱税が疑われるなど、相当悪質な場合に限られます。ニュースで見かけるのが強制調査です。
相続税の税務調査が入る割合
国税庁は、毎年相続税の申告件数と税務調査の実施件数を公表しています。
令和元年に税務調査が行われた件数は10,635件です。
申告から調査までには1〜2年の時間差があるので、2年前の平成29年分の申告件数(課税対象の件数)143,881件から、令和元年に税務調査が行われた割合を算出すると7.4%となります。
前年(平成30年)に税務調査が行われた件数は12,463件で、平成28年分の申告件数136,891件に対して税務調査が行われた割合は9.1%です。
税務申告をした人のうち、11〜13人に1人の割合で税務調査が実施されていることがわかります。
また令和元年で実際に税務調査が行われたうち、申告漏れなどの問題が指摘された「非違件数」は9,072件で、その割合は85.3%です。
相続税の税務調査が入る時期
相続税の時効は申告期限から原則5年で、税務調査が入るとすればその期間に行われます。
税務調査の時期は提示されていませんが、一般的にいわれているのは、申告の翌年または2年後の8〜11月です。
これ以外の時期でも、時効までの間であればいつでも調査が入る可能性はあります。
申告から2年後の11月を過ぎていれば、税務調査の可能性は低くなります。
相続税の税務調査の可能性大!8つのケース
ケース1:申告書に不備がある
申告内容に計算間違いや記載ミス、添付書類の不備などがあると税務調査が入りやすくなります。
また税務署は被相続人の預貯金や不動産など財産やお金の流れを把握しているます。そのため、記載されていない相続財産があると、「意図的に財産を隠していないか」などを疑い調査に入ります。
ケース2:相続額が大きい
相続額が大きいと税務調査が行われる確率が上がります。目安としては相続財産が2,3億円以上の場合です。
財産が多いと、それだけ財産評価や税額計算のミス、財産の見落としのリスクが高まります。
また相続額が大きいと税率が上がり、納税額も高くなります。小さなミスでも納めるべき税額が大きく変わってしまうため調査が入りやすくなるのです。
ケース3:相続財産に預貯金や現金が多い
不動産よりも預貯金や現金の額が多い方が、税務調査に入られる可能性が高くなります。
評価が複雑な不動産よりも、預貯金や現金は申告漏れを見つけやすいためです。
ケース4:預貯金の出入りが多い
被相続人が生前に、相続税を少なくするために財産の移転をしていたのではないか、あるいは個人間でのお金の貸し借りや何かを売買していたのではないかと疑われます。
こうした内容は家族でも知らないケースが多く、申告漏れになる可能性が高くなります。
ケース5:名義預金や暦年贈与が多くある
名義預金とは、預金口座の名義とは別の人がその口座を管理している預金のことです。例えば「祖父が孫の名前で通帳を作ってお金を貯めている」などのケースです。
名義預金の場合、実質的に管理している人の財産とみなされるため、この例だと、孫名義の口座でも祖父が亡くなった時は祖父の財産とみなされ、課税対象としてカウントされます。
また暦年贈与は、毎年110万円までなら非課税で生前贈与ができる贈与方法ですが、毎年定期的に決まった額の贈与を繰り返している場合、非課税の贈与ではなく一括贈与とみなされ、課税対象となってしまいます。
特に収入が少ない相続人(専業主婦(夫)である配偶者、学生である子どもなど)の預貯金が多い場合は注意が必要です。
・申告した財産内容が想定外に少ない
・申告内容に大きな不備がない
と、名義預金や贈与に目をつけて調査が入ることがあります。
ケース6:海外資産が多い
海外への送金・入金が1回あたり100万円を超えると、金融機関から税務署に情報が送られます。税務署が把握している資産額と申告内容を比較して違いがあると税務調査が入る可能性が高まります。
ケース7:税理士に依頼せず自分で申告した
相続税の申告書は相続人自身で作成することもできますが、被相続人の財産が多いと、評価額の算定が大変です。
特に土地の評価額は専門家でも評価が分かれるほど複雑です。また相続財産の見落としや、計算ミスなども起きやすい傾向があります。
相続税の申告書には、税理士が作成した場合の署名欄があり、署名があることで信頼度の高い申告書になります。相続人自身で作成すると署名欄を空欄のまま提出することになり、税務署によるチェックが厳しくなり、調査されやすくなります。
ケース8:申告が必要なのに申告しなかった
相続税の計算をしてみたところ、相続税が発生しないとわかり申告をしなかったケースです。
相続税が基礎控除以下であれば、相続税は0円で申告の必要もありません。しかし、配偶者の税額軽減などの控除や特例などを適用して相続税が0円の場合、相続税を納付する必要はありませんが申告の義務はあります。
申告をしていなくても税務調査が入る可能性がある、という点に注意しましょう。
相続税の税務調査の実態~指摘を受けるとどうなる?
相続税の税務調査が行われると、約8割という非常に高い確率で申告漏れや誤りなどが指摘されています。
税務調査で指摘を受けると、ペナルティとして次の4つの種類の税金が追加で課せられます。
延滞税
納税を延滞したことで課せられる税金で、利息に当たるものです。
年度により変動しますが、令和3年の場合、所定の納期限から2か月以内は年2.5%、2か月を過ぎると年8.8%です。
過少申告加算税
申告期限内に提出された申告書に記載した額が、納付すべき額より過少だった場合にペナルティとして課せられる税金です。
税務調査の通知を受ける前に自主的に修正申告または更正をすれば課税されません。税務調査の通知を受けてから行うと、税率は5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%)です。
税務調査後に行うと、税率は10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)です。
無申告加算税
期限までの申告がなかった場合にペナルティとして課される税金です。
税務調査の通知を受ける前に自主的に申告した場合は、税率5%です。税務調査の通知を受けて申告した場合の税率は10%(50万円を超える部分については15%)です。
税務調査が入るまで申告がなかった場合の税率は15%(50万円を超える部分については20%)です。
重加算税
財産の隠蔽や偽装など意図的に相続税の申告を操作したと判断された場合に、重いペナルティとして課される税金です。
意図的に相続税を少なく申告していた場合は納付すべき税額に対して35%、意図的に無申告で相続税から逃れようとしていた場合は納付すべき税額に対して40%が課せられます。
②過少申告加算税や③無申告加算税は、気づかずに申告漏れになっていた、財産の評価や計算をうっかり間違えていた場合に当てはまるペナルティです。
一方④重加算税は意図的に過少申告をしたり、無申告をしたりした場合のペナルティのため、②や③よりも課税率が高くなっています。
相続税の税務調査の流れ
税務調査は、被相続人か相続人の自宅で行われます。調査官は通常2名(質問係と記録係)で、多くの場合、朝10時から始まり夕方までの1日で終了します。
【調査前日まで】
税務調査は、事前に税務署から日程を決めるための連絡が入ります。
調査を拒否することは原則できません。調査にはできれば相続人全員が立ち会うか、無理な場合はできるだけ人数を揃えましょう。
担当税理士も一緒に立ち会うことができます。調査日までに税理士と打ち合わせをしておくと安心です。
【調査当日】
午前10時〜正午:聞き取り調査
午前中は、主に聞き取り調査が行われます。
税務署のマニュアルに基づいた質問と、申告書の内容に即して細かく聞き取り調査が行われます。
正午〜午後1時:お昼休憩
調査官は必ず外に出て昼食を取るので、相続人側で用意する必要はありません。
午後1時:調査再開
午前の聞き取り調査を踏まえ、具体的な資料の確認をします。
通帳(印鑑も)のほか、土地の権利証、保険証書、ゴルフ会員権、香典帳、電話帳など
金庫やタンス等、貴重品の保管場所についても実際に確認します。
調査の結果、不審な点についての質問や、発覚した申告漏れについて具体的な指摘があります。
午後3時〜5時:調査終了
午前中の聞き取り調査に対する回答について書面にまとめたもの(質問応答記録書)へ署名押印を求められます。
任意ですが、内容に問題がなければ署名押印した方が、その後のやり取りが早く終わる可能性が高くなります。
またこの書面はのちに証拠として使われる場合があるので、立ち会いの税理士にも確認してもらいましょう。
税務調査の際の注意点
揃えておいた資料はあえて自分から出す必要はなく、求められたもののみを提出します。
家の中を強引に捜索されることはありませんが、部屋や金庫などを見せてほしいと求められた場合は、拒否すると心証がよくないのでできれば隠さずに見せましょう。
税務調査ではできるだけ協力を惜しまず、心証がよくなるように心がけることがポイントです。
相続税の税務調査でよく聞かれること
税務署には税務調査のマニュアルがあり、それに基づいて質問が行われます。
簡単な質問にみえるものもありますが、これらの質問には、申告している相続財産以外の
財産(隠し財産)があるかどうかを見極めたり、相続人に仮装・隠蔽の意図があったかどうかを確認したりする、という意図があります。
申告内容にミスがあった場合、それがうっかりミスなのか故意によるものなのかで、ペナルティで課税される税率が大きく変わるからです。
こちらでは税務調査の際によく聞かれる質問について、具体例を紹介します。
調査が決まったら、担当税理士とこれらの質問に対して事前に回答を用意しておくと安心です。
被相続人についての質問
・被相続人の出身地、職業、結婚歴と時期、趣味は?
・被相続人の家族構成は?
・被相続人の配偶者や子どもの年齢、学校名、職業は?
・被相続人の配偶者や子どもの財産状況は?
被相続人の財産関連の質問
・被相続人はどのようにして相続財産を築いたか?
・被相続人の出費の状況は?
・被相続人と取引のある金融機関と支店名は?
・被相続人の投資状況は?
・被相続人が亡くなる前の財産管理の状況は?
・大きな出費についての使途は?
・被相続人が生前に贈与した寄付の内容は?
被相続人の死因についての質問
・被相続人が亡くなったときの状況は?
・被相続人にかかった介護費用や医療費は?
相続人についての質問
・相続人の経歴、職業、収入、住まいは?
・相続人と取引のある金融機関と支店名は?
・相続税を納税した金融機関は?
・相続人の投資状況は?
相続人の家族についての質問
・相続人の配偶者や子どもの年齢、学校名、職業、年収は?
相続人へのその他の質問
・相続人の自宅の購入金額や売却金額は?
・生前贈与を受けたことがあるか?
・相続人は貸金庫を持っているか?
相続税の税務調査が入らないようにするための対策
税務調査が入ると、約8割と高い確率で追徴課税のペナルティを受けています。
こちらでは、税務調査を受けないために、相続税申告でできる対策を紹介します。
など
被相続人の財産を把握しておく
相続税の申告漏れは、被相続人の財産を相続人が把握していなかったことが原因であるケースが多くあります。
・生前に本人が財産目録を作る
・家族から財産目録を作るよう本人に働きかける
などをして、生前から被相続人の財産を把握しておくことが大切です。
申告漏れやミスがないよう正しく申告する
・相続財産の見落としがないか、すべての財産を調査し把握する
・計算ミスがないか、複数回にわたり確認する
この2点は大前提ではありますが、税務調査が入らないようにする最も有効な対策です。
また相続財産については、金額や内容がわかる資料を添付するといいでしょう。
預金:金融機関の残高証明書
不動産:登記簿謄本(全部事項証明)、固定資産税評価証明書
など
生前贈与した場合は証拠を残しておく
生前贈与は相続財産を少なくするために相続税対策として利用するケースがあります。生前贈与をする場合は、口約束ですまさず、必ず書面に残すようにしましょう。
大きな額のお金が移動しているのに、贈与であることが証明できないと税務調査のリスクが上がります。
具体的には
・現金で手渡しをせず、銀行振込で記録を残す
・贈与の都度、贈与契約書を作成する
などです。
相続に関するやりとりは必ず形に残しておく
相続でのやりとりがあった際は、必ず書面など形にして残しておきましょう。身内だと口約束になりがちですが、万が一税務調査が入った場合、証明できるものがないとペナルティを受ける可能性があります。
また財産について調べる際は、調べた内容についても詳しく書面に記載して残しておきます。
例えば、被相続人の貸金庫を調査した場合「中身は〇〇銀行の預金通帳と印鑑のみでした」など日付とともに書面で残します。
遺産を分割する際は、誰がいくらもらうのか、何をもらうのかについて、過程も含めたやり取りの記録を残しておきましょう。
相続税に強い税理士に依頼する
相続税の申告書には税理士が作成した場合に署名を入れる税理士署名欄があります。
署名欄が空欄の申告書よりも信頼性が高くなり、税務調査を受ける確率が下がります。
ただし税理士にはそれぞれ税の専門分野があるため、相続税を専門にしている税理士に依頼しましょう。申告内容に詳細な説明書類を添付する「書面添付制度」を活用できる税理士であれば、さらに税務調査が入る確率を下げることができます。
相続税の税務調査が入ることになった場合にすべき準備
税務調査の対象になると、税務署から連絡が入り税務調査の日時を決めます。
調査開始までにやっておくべき準備は次のとおりです。
申告書の内容を再確認する
記入漏れ、計算ミスがないか細かく見直します。担当税理士がいる場合は、一緒に確認します。
財産の洗い直しをする
見落としている財産がないか、再度調べ直します。
・タンス預金、へそくりなどの現金
・名義預金
・美術品、骨董品、宝石など
・生命保険金
・人に貸していた未返済のお金
・売掛金(事業をしていた場合)
・亡くなる前3年以内に生前贈与された財産
・亡くなる直前に出金した預金
・著作権
・借地権
など
申告内容を証明する資料を揃える
申告した内容について、実際に確認・証明するために必要な書類や資料をできるだけ揃えます。
・相続税申告書(本人控)
・相続税申告書の添付書類(本人控)
・相続税申告書作成で使用した計算の根拠となる資料
・預貯金通帳のすべて(被相続人、相続人)
・金融機関から取り寄せた過去5年分の取引履歴(被相続人、相続人)
・相続人が所有している土地の権利証や、不動産を購入した際の資料
・相続人の認印
税務調査は、多くの場合申告が終わってから1〜2年後にくるため、忘れてしまっていることもあると思います。そのため当時の資料と記憶を整理することが大切です。
税理士に申告を依頼していた場合は、担当税理士と確認しながら進めましょう。また税理士に依頼せず自身で申告をしていた場合は、この時点で新たに税理士に依頼して、上記の準備とともに税務調査に立ち会ってもらいましょう。
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